ソフトウェア特許解説vol.1―特許権と著作権の違い― / マルパチ 

今回はGPL(=General Public License)バージョン3にて新たに追加された条項であるGPLv3第11条(特許)について解説していきたい…と思ったんですがその前に「ソフトウェア特許」について基本的な解説をしたいと思います。

なぜ、GPLは著作権に関するライセンスなのに、特許権に関する条項が必要になるのでしょう。
その理由を知るためには著作権と特許権の違いについて軽く触れなければなりません。

Wikipediaの定義によると著作権とは「著作権(ちょさくけん)とは、言語、音楽、絵画、建築、図形、映画、写真、コンピュータプログラムなどの表現形式によって自らの思想・感情を創作的に表現した者に認められる、それらの創作物の利用を支配することを目的とする権利をいう」のだそうです。
一方の特許権についてWikipediaの定義は「有用な発明を公開した発明者または特許出願人に対し、その発明を公開したことの代償として、一定期間、その発明を独占的に使用しうる権利」なのだそうです。
これらの定義からわかる著作権と特許権の最大の違いは、その保護の対象です。つまり著作権の保護対象が「表現」であることに対し、特許権の保護対象は「発明」なのです。

何が「表現」で何が「発明」なのかは小難しい法解釈の問題になってしまうのですが、わかりやすくするためざっくりと一例を挙げます。
ソフトウェアにおける表現とは、ソースコードやひとまとまりのプログラムであると言える程度にまとまったモジュールなどです。
ソフトウェアにおける発明とは、ハードウェアを制御するためのプログラムであったり、斬新なビジネスモデルを可能にするためのアルゴリズムであったりします。
(上記の発明・表現の分類は日本法におけるものです。合衆国法やEU法では分類が異なります。念のため。)

つまり特許権と著作権は一見全く同じものを対象としているように見えて、実は全く別のものを対象にしているのです。この違いをしっかり意識しておかないと知らない間に他人の知的財産を侵害していたということもあり得ます。
例えばソフトウェアにライセンスが付与されていたから権利関係は大丈夫と思い込んで使用していたら、実はライセンスが著作権に関する許諾しかしておらず、後日になって特許権者から警告書が届いてしまったりします。

このような事故は誰にでも起こりえます。というのも自分のソフトウェアが既存の特許権に抵触するかどうかというのは調査・判断が難しいからです。
著作権の判断は簡単です。著作権の保護対象は「表現」です。ということは自分のコーディングが他人のコーディングの真似でなければ大丈夫ということです。ちゃんと自分で創作したプログラムなら著作権的にはセーフです。
しかし特許権は「発明」を保護対象としているため、アイディアが被っていればアウトです。他人の特許権を全く知らなくてもアウトです。著作権とは違って真似したつもりが無くてもアウトになり得ます。とはいえ膨大な特許権データベースの中から自分のアイディアとよく似た特許を探し出す作業は困難なのです。
ソフトウェアの作成者は、自分のソフトウェアが他人の特許権を侵害していると気づかず、自分の著作権についてのみライセンスで使用許諾をして配布してしまうかも知れません。

大企業に所属しているSE・PGならば特許権の調査・判断は知的財産部・法務部が代わりにやってくれます。しかし知的財産部のない中小企業や個人営業のプログラマーはどうでしょう。特許権の調査ができますか?
特許権調査の参考になるリンクを貼って今回の記事を締めくくりたいと思います。特許庁の特許電子図書館です。それでは!!
2010/01/28(Thu) 15:10:40