GPL解説vol.6―GPLの新しいバージョン― / マルパチ 

前回の記事でGPL(General Public License)の古いバージョンの取り扱いについて解説しました。GPLにバージョンがあるということは、今後GPLの新しいバージョンであるバージョン4がリリースされる可能性が高いということです。
前回の記事を読んだmagicienから「新しいバージョンの取り扱い」について質問があったので、今回はこれをテーマにしたいと思います。

GPLv2(=GPLバージョン2)に改訂版に関する第9条があるように、GPLの現行バージョンであるGPLv3(=GPLバージョン3)にも改訂版に関する14条があります。そしてGPLv3第14条2パラグラフは前回説明したGPLv2第9条2パラグラフと同様の規定です。
つまりあなたが自らの開発したソフトウェアに対しGPLバージョン3又は後発の全てのバージョン(="or any later version")によるライセンスをした場合、あなたからソフトを受け取った人にはGPLバージョン4に従うことを選択する権利が発生してしまうのです。

「わざわざ著作権告知に"or any later version"なんて文言を入れやしないよ」と思うかも知れませんが、落とし穴があります。
GPL作成者であるフリーソフトウェア財団(=FSF)はGPLを利用するソフトウェア開発者に対して著作権告知のテンプレートを用意しています。このテンプレートにはしっかりと書いてあるのです。"or any later version"の文言が。
深く考えずにこれをコピペすると、あなたのソフトウェアに「いつの間にかGPLバージョン4が適用されていた」という事態が発生します。

このような事態は回避したいという方も多いでしょう。
あなたが開発したソフトウェアなら、FSFの著作権告知のテンプレートから"or any later version"の文言を削除してバージョン3のみに従うよう指定することで、GPLバージョン4の適用を排除できます。
しかし他人が開発したソフトウェアの著作権告知に既に"or any later version"の文言が入ってしまっている場合、改変者・再配布者であるあなたは"or any later version"の文言を削除することができません。なぜなら第3回及び第4回にて解説したように、あなたには「適切な著作権告知(appropriate copyright notice)」を保持するという条件が課されているからです(GPLv3第4条1パラグラフ及びGPLv3第5条1パラグラフ)。すると「いつの間にかGPLバージョン4が適用されていた」という事態が発生しうるわけですね。

ソフトウェアに適用されるGPLのバージョンが自分では決められない、ということを不安に思われるかも知れません。未だにリリースされていないライセンス文書がソフトウェアに適用されるかもしれないというのは、非常にリスキーです。なぜならライセンス文書がどのような内容になるかわからない以上、あなたに不利益をもたらす条項が挿入されないとも言い切れないからです。
でもGPLに限って言えばそのような法的リスクはありません。仮にGPLバージョン4にあなたの不利益となる条項が追加され、かつ、ソフトウェアにGPLバージョン4が適用されることになったとしてもあなたが困ることは無いでしょう。

そのように言える理由はGPLv3第14条4パラグラフにあります。その翻訳は以下の通りです。
「後発のライセンスバージョンはあなたに追加的許諾、又は、異なった許諾を与えるかも知れない。しかしながら、あなたが後発のバージョンに従うことを選択した結果として、全ての作成者又は著作権者に対して追加的義務が課されることはない。」
このパラグラフが何を言いたいのかというとつまり、GPLバージョン4がGPLバージョン3と比べて作成者・改変者の不利益となる条項を含むものであった場合に、利用者がGPLバージョン4に従うことを選択したとしても、作成者・改変者の不利益となる部分についてのみGPLバージョン4の適用が排除されるということです。
この条項により、GPLのバージョンアップに伴う法的リスクを打ち消しているというわけですね。

そんなわけでGPLのバージョンアップをおそれる必要はありません。あなたが開発したソフトウェアの著作権告示から"or any later version"の文言を削除する必要性も薄いと言えるでしょう。

次回のテーマについてちょっと迷っているんですが、いま「ソフトウェア特許」が熱そうなんでGPLv3第11条(特許)について解説して「ソフトウェア特許」への足がかりにしようかな。
それでは!!
2010/01/24(Sun) 18:35:24