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 GPL解説vol.7―GPLソフトウェアと作成者の特許権― / マルパチ 

今回からGPL(=General Public License)v3第11条の解説に入りたいと思います。

一昨日の記事で解説したように著作権と特許権は別個の権利です。ですからライセンスも著作権と特許権について別々の許諾をする必要があります。
GPLそれ自体は著作権についてのライセンスです。ですから特許を含むGPLライセンスソフトウェアを利用・改変・再配布してよいのかが問題になりうるのです。

そこでGPLv3はGPLライセンスソフトウェアに含まれている特許についての許諾条項を設けています。それがGPLv3第11条(特許)なのです。
GPLv3第11条3パラグラフは、GPLライセンスソフトウェアの著作権者が有する特許であって、GPLライセンスソフトウェアの利用・改変・再配布により侵害される特許につき、特許の製造・利用・販売・販売申込・インポート(実行・改変プロパゲート)を、非独占的かつ無償にて許諾するとしています。
(ここで「GPLv3第11条3パラグラフを勝手にかみ砕くな!」とツッコミが入りそうですが、大体こんな意味である、ということでご容赦ください。本稿の目的はGPLをわかりやすく解説することにあるので。実際のGPLv3第11条はもっと複雑です。)

ただしここでもう一つの問題が発生します。
GPLv3第11条3パラグラフの許諾する特許が、GPLライセンスソフトウェアの著作権者が有する特許に限られているということです。ちなみになぜ著作権者の有する特許しか許諾しないのかというと、他人の特許を勝手に許諾することが不可能だからです。許諾しないと言うより許諾できないのです。特許権も著作権と同じように支配権であるというわけです。
話が脱線しましたが、とにもかくにもGPLはGPLライセンスソフトウェアに含まれる全ての特許について許諾しているわけではありません。
すると結局、特許権者から警告書が届く恐怖におびえなければならないのではないか?という疑問が生じるかと思われます。

GPLはその恐怖を少しなりとも和らげるための規定を設けています。GPLv3第11条5パラグラフがそれです。
GPLv3第11条5パラグラフによると、ソースコードが他人の特許許諾に依拠するものであることを知りながら再配布する者は、以下の3つの措置のうちのいずれかを講じなければなりません。
すなわち、①ソースコードを公に利用できるネットワークサーバー等を通じて、GPLの規定に基づいて、無償で、誰でもコピーできるようにする、②自らに当該特許ライセンスの利益を与えないようにする、③GPLの条件に適合する方法で特許ライセンスを下流の受領者にまで拡張すること、のいずれかです。

この規定により、あなたが特許の存在に気づかないという危険はグッと減少します。上記①ないし③のいずれかの措置が施されたGPLライセンスソフトウェアなら特許権の存在に嫌でも気づきますからね。理論的には上流の(元の)著作権者が特許権侵害の事実に気がついていないため①ないし③の措置を施していないという危険もあり得るのですが、実際にはちゃんと特許権の存在について認知している場合がほとんどでしょう。ある程度の大きさの企業・団体なら特許権の調査をやりますから。

今回はこの辺で。それでは!
2010/01/30(Sat) 20:21:00

 ソフトウェア特許解説vol.1―特許権と著作権の違い― / マルパチ 

今回はGPL(=General Public License)バージョン3にて新たに追加された条項であるGPLv3第11条(特許)について解説していきたい…と思ったんですがその前に「ソフトウェア特許」について基本的な解説をしたいと思います。

なぜ、GPLは著作権に関するライセンスなのに、特許権に関する条項が必要になるのでしょう。
その理由を知るためには著作権と特許権の違いについて軽く触れなければなりません。

Wikipediaの定義によると著作権とは「著作権(ちょさくけん)とは、言語、音楽、絵画、建築、図形、映画、写真、コンピュータプログラムなどの表現形式によって自らの思想・感情を創作的に表現した者に認められる、それらの創作物の利用を支配することを目的とする権利をいう」のだそうです。
一方の特許権についてWikipediaの定義は「有用な発明を公開した発明者または特許出願人に対し、その発明を公開したことの代償として、一定期間、その発明を独占的に使用しうる権利」なのだそうです。
これらの定義からわかる著作権と特許権の最大の違いは、その保護の対象です。つまり著作権の保護対象が「表現」であることに対し、特許権の保護対象は「発明」なのです。

何が「表現」で何が「発明」なのかは小難しい法解釈の問題になってしまうのですが、わかりやすくするためざっくりと一例を挙げます。
ソフトウェアにおける表現とは、ソースコードやひとまとまりのプログラムであると言える程度にまとまったモジュールなどです。
ソフトウェアにおける発明とは、ハードウェアを制御するためのプログラムであったり、斬新なビジネスモデルを可能にするためのアルゴリズムであったりします。
(上記の発明・表現の分類は日本法におけるものです。合衆国法やEU法では分類が異なります。念のため。)

つまり特許権と著作権は一見全く同じものを対象としているように見えて、実は全く別のものを対象にしているのです。この違いをしっかり意識しておかないと知らない間に他人の知的財産を侵害していたということもあり得ます。
例えばソフトウェアにライセンスが付与されていたから権利関係は大丈夫と思い込んで使用していたら、実はライセンスが著作権に関する許諾しかしておらず、後日になって特許権者から警告書が届いてしまったりします。

このような事故は誰にでも起こりえます。というのも自分のソフトウェアが既存の特許権に抵触するかどうかというのは調査・判断が難しいからです。
著作権の判断は簡単です。著作権の保護対象は「表現」です。ということは自分のコーディングが他人のコーディングの真似でなければ大丈夫ということです。ちゃんと自分で創作したプログラムなら著作権的にはセーフです。
しかし特許権は「発明」を保護対象としているため、アイディアが被っていればアウトです。他人の特許権を全く知らなくてもアウトです。著作権とは違って真似したつもりが無くてもアウトになり得ます。とはいえ膨大な特許権データベースの中から自分のアイディアとよく似た特許を探し出す作業は困難なのです。
ソフトウェアの作成者は、自分のソフトウェアが他人の特許権を侵害していると気づかず、自分の著作権についてのみライセンスで使用許諾をして配布してしまうかも知れません。

大企業に所属しているSE・PGならば特許権の調査・判断は知的財産部・法務部が代わりにやってくれます。しかし知的財産部のない中小企業や個人営業のプログラマーはどうでしょう。特許権の調査ができますか?
特許権調査の参考になるリンクを貼って今回の記事を締めくくりたいと思います。特許庁の特許電子図書館です。それでは!!
2010/01/28(Thu) 15:10:40